銀行業務から金融を中心とする総合サービス業にシフトし、純利益倍増以上の地方銀行グループ

地方創生のカギを握るのは、その地域に根ざした地方銀行の存在とも言われる。なかでも岡山県を本拠地にする中国銀行は、金融を中心とする総合サービス業へとシフト。先進的な取り組みを積極的に進めている。同銀行を傘下に収める株式会社ちゅうぎんフィナンシャルグループの代表取締役社長 加藤 貞則氏が、「岡山モデル」で推し進める地域と事業の持続性について語った。
目次
環境だけでなく、事業の持続性も考えたSDGsを力強く推進

「豊かな未来を共に創る」というビジョンを目指し、SDGsを経営の指針に掲げて持続可能性を追求する株式会社ちゅうぎんフィナンシャルグループ。同社の中期経営計画には、地方創生やSDGsといった文字が見受けられる。
「中期経営計画として、2022年度までは『地方創生、SDGsの取り組み強化』など、5つの柱を掲げてきました。2023年度から2026年度は、新たに3つの成長戦略として『地方創生SDGsの「深化」』『イノベーションの創出』『グループ経営の強化』を盛り込みました」(加藤氏)
地方創生とSDGsは、引き続き取り組む事項として、筆頭に掲げられている。
「SDGsは環境だけでなく、事業の継続性などさまざまなことを包括しており、そのゴールを目指すことが大切だと考えています。ですから、以前から熱心に取り組んで参りました」(加藤氏)
岡山県では岡山大学を中心に早くからSDGsへの取り組みが進められてきた。それが自治体や産業界、金融機関、メディアにも波及し、2019年の調査によると、日本で最もSDGsの認知度が高い県に選出されている。
コンサル業務などが好調で、純利益倍増以上の好業績

岡山県における地域創生は、持続的な発展を旗印に独自の進化を遂げてきた。そのなかで、中国銀行/ちゅうぎんフィナンシャルグループは、業績を大きく伸ばしている。2019年度、加藤氏が中国銀行の頭取に就任した当時の連結決算(当期純利益)は、119億円だった。これが、ちゅうぎんフィナンシャルグループが設立された2022年度には204億円。2024年度は250億円の予想と、倍増以上を見込む。
「事業承継といったコンサルティングなどで、手数料をいただける部分が伸ばせたことで、業績を牽引したのだと思います。2026年度には300億円の目標が見通せるようになってきました」(加藤氏)
コロナ禍から商社やファンド、エネルギー、コンサルなどに業務を拡大
加藤氏が中国銀行の頭取に就任して約半年後、コロナが猛威を振るうこととなった。
「大変なときに頭取になったね、とは言われました。ただ、それまでの融資を中心にした業務以外にも、地方において取り組むべき課題がどんどん生まれてきたと感じました。私たちの業務が広がりつつあるのだとも思いました。規制緩和で銀行法が改正されたことから、持株会社化や傘下企業の設立を進めました」(加藤氏)
地域事業者の製品を扱う商社「せとのわ」や、ファンドの「ちゅうぎんキャピタルパートナーズ」など5社を新たに設立し、グループ化した。
「例えば事業承継などの場合、ちゅうぎんキャピタルパートナーズは、有限ではあるものの100%まで出資が可能です」(加藤氏)
従来は、銀行として融資しかできなかったが、グループ企業が出資をして、業績の改善なども図りながら、後継者探しにも参加できるようになった。
「岡山は『晴れの国』とも呼ばれ、晴れの日が多いことが特徴です。太陽は資源です。太陽光発電などを手がける『ちゅうぎんエナジー』は、お客様に屋根など場所をお借りして発電施設を設置し、お客様のCO2の削減にもお役に立てます」(加藤氏)
同グループのひとつ、Cキューブ・コンサルティングは、DX、SX、GXを中心としたコンサルティング企業だ。ちゅうぎんグループ、Community(地域社会)、Co-Creation(共創)をかけ合わせ、相乗効果でcube(かたち)にする。
同社は、岡山県の最北端に位置する新庄村と村ごと連携する協定を締結した。人口約800人と、県内で最も小さな自治体だ。
国産材の需要が高まるなか、新庄村では未来へと持続可能な林業の姿を模索し、先端の機械を採用した新しい林業がスタートしている。
苗木の運搬や測量、肥料の散布などはドローンを活用したスマート林業を目指している。
同社と村の官民連携は、林業だけではない。地域に根ざした地方銀行グループならではの包括的な取り組みだ。
「ちゅうぎんヒューマンイノベーションズは、新庄村に幹部の人材を紹介し、既にご活躍いただいています。人材育成やトレーニングなども業務の範疇として捉えています」(加藤氏)
地方創生の新たな方程式となる「岡山モデル」を提唱
事業承継に際しても、課題は承継者を見つけるだけにとどまらない。併せて、すぐれた幹部社員がいなければ、事業は成立しにくい。こうした人材探しもサポートする。
「社長のご子息が、承継者としてはまだ若いという場合など、中継ぎとなる人材をご紹介するケースがあります。私どもは、両サイドの情報が集まる仕組みを作っており、双方からのご要望にもマッチングの成果を上げています」(加藤氏)
グループ内で人材紹介、人材育成、そして事業承継のカギを握り、ワンストップで対応が可能になる。
このような地方創生の新たな方程式は、「岡山モデル」と呼ばれている。
「県内の自治体には、同じ課題を抱えているところがあります。うまく解決したという事例が集積すると、そこにはひとつの型ができあがります。他の自治体の事例が当てはまれば、解決策として採用できます。これを私どもは『岡山モデル』と名付け、広く展開できればよいと思っています」(加藤氏)
「岡山モデル」は、全国に浸透する可能性を持っている。その本格化と変革のキーとなるのは、地方銀行の存在だろう。
同行は各営業店に対して、地域の課題をきちんと吸い上げ、その期待に応えている。新庄村のケースも、営業店に寄せられた要望からスタートしたという。
「本部だけでは、お客様の本当のニーズを把握できないのです。現場の各支店長や行員がお客様に対面し、直接お話をうかがう中で、把握した課題は新鮮ですし、本質を捉えていることが多いのです」(加藤氏)
従来は、本部がマーケット分析をしながら、融資や預金額を含めた業務計画を練り、決定後に各営業店に伝えていたという。
「現在はこうした目標の立て方は中止しました。自主計画や、それぞれのお客様の課題を解決して伸ばす方法を考えています」(加藤氏)
業務に直接的には関わらないSDGsや地方創生の目標なども、各営業店が独自に立てられる仕組みがあるという。
「そのキーワードとなるのは共創です。単独の企業、ひとつの銀行、ひとつの自治体では、とうてい成し得ないと思うのです。常に連携しながら進めるのが理想です」(加藤氏)
事業承継など、さまざまなプラットフォームのハブを担う企業に
同グループでは、企業の特定の部門を切り出して外注するBPO(Business Process Outsourcing)の受託業務もスタートした。
「地方では今、とくに人材不足が深刻です。しかし、経理部門などは機密事項も多く、誰にでも託せるものではありません。私どもなら、日々の取引がある銀行として、信頼をいただけると思います」(加藤氏)
地域に深く根ざした同フィナンシャルグループは、岡山県の未来をどう描いているのだろうか。
「地域の金融機関は、信用を強みにさまざまな情報が集積するプラットフォームです。さまざまなプラットフォームにおいて、地方創生に関する情報や、各企業の抱える課題、事業承継などの情報が行き交うハブの機能を果たしていきたいと考えます」(加藤氏)
その役割をしっかりと担うことで、岡山の地域の活性化や、発展にも大きく寄与していくことだろう。
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