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5000万円の赤字ブランドをM&A、「家がつぶれるぞ」と反対されても決断した社長 V字回復させた判断の決め手と視点とは

花の世界を総合的にプロデュースするフラワーデザインカンパニーとして、多数の事業を手掛けている「株式会社ベル・フルール」(東京都板橋区)。経営者とデザイナーという二足の草鞋を履く今野亮平代表取締役社長(48)は、母親が始めたフラワースクールの事業承継だけでなく、他社ブランドのM&Aも手掛けている。異なる立場でブランドを継ぎ、それぞれ大きく成長させた今野氏に、事業承継で大切だと考える点を聞いた。

「絶対にやるな」「本当に家がなくなるぞ」

EMILIO ROBBA直営ショップ(写真提供:株式会社ベル・フルール)

――代表取締役就任後に変えたことや、変化を感じたことはありましたか?

スタッフに対して変えたことはありませんが、専務の今野亮平から代表取締役社長の今野亮平になったことで、外からの見られ方が変わりました。

私としては特に変えたところもなく、最初から社長だという思いで創業当時から現在に至るまで取り組んでいます。しかし、立場が人を作るという言葉もあるように、見られることで変わるものだなと感じました。

新型コロナウイルスが流行したタイミングである2020年の冬に、経営者として突然大きなプレゼントをいただきました。「EMILIO ROBBA」というブランドのM&Aです。

EMILIO ROBBAについて、当時相談していたコンサルの方からは「絶対にやるな」と言われていました。なぜなら、EMILIO ROBBAはすでに5,000万円の赤字を抱えていたからです。両親からも「本当に家がなくなるぞ」と言われました。

――周囲からは厳しい意見が多かったのですね。

当時、私はお花の世界大会に出場するため、インドに滞在していました。そこで、EMILIO ROBBAのM&Aをするか、しないかの決断を迫られていたのです。

あの時の首に刀を突き付けられているような感覚は、今でも忘れられません。でも、本当にあそこで判断しなかったら、もうEMILIO ROBBAというブランドはこの世からなくなっていました。

――多額の赤字を抱えていたにもかかわらず、なぜM&Aをしようと考えたのでしょうか?

M&Aをする前に、日本にあるEMILIO ROBBAの店舗を訪れましたが、正直なところお店はいろいろと問題があるような店構えでした。一方で、商品の素材を細かく見てみると「しっかりしているな」という印象でした。

岡山県にある店舗を訪れた際、20~30代と思われるスタッフの方と話したときの印象が記憶に残っています。話のなかで、そのスタッフから「うちの店長は、私の母と同い年なんですよ」という言葉がありました。

その時、「店長が自分の母と同い年」という認識のあり方に愛を感じ、心に響く感覚があったことを覚えています。

また、京都の店舗を訪れた際に、店長が忙しく動き回って一生懸命仕事をしている姿にも胸を打たれました。この2つのエピソードから、EMILIO ROBBAはいけると感じてM&Aを決めました。

結果的に、今では売上の規模が2倍以上になるなどのV字回復を遂げて、私自身も経営者として大きく成長できたと感じています。

1981年の創業当初から変わらない会社としての姿勢

今野社長とスタッフのみなさん(写真提供:株式会社ベル・フルール)

――承継後も変わらず守っていこうと感じた点を教えてください。

愛情を持ちながら人と接することです。ベル・フルールでは、社員に対して悪いところはきちんと注意するように伝えています。昨今では、ほめて伸ばすことが良いとされているなかで、注意する側は非常にパワーを使います。

今の時代においては、伝え方にも気を遣わなければなりません。そこで、注意する際は「愛」が必要だと伝えています。愛があれば怒られた側にも思いが伝わるからです。

ベル・フルールは、母親から会社を継いだという意味ではファミリービジネスに該当しますが、経営者の方からは家族間における仲の良さに対してよく驚かれます。他社の場合、親子で仲が悪かったり、離れてしまったりするという話を聞くからです。一方で、ベル・フルールは本当に家族の仲がいいです。

家族という縁があったとしても、やはり1人の人としてお互いが尊重しているので、そのあたりの空気感はスタッフにも伝わっているのではないでしょうか。

――改めて振り返った際に、事業承継を成功させるためのキーはどこにあるとお考えですか。

1人ひとりに合わせた対応をして、お客様からの信用を得ることではないでしょうか。例えば、毎週フラワースクールに通っている方から「来週は休む」と、言われたとします。

まず、必ず理由を聞くのですが、仮にハワイ旅行へ1週間行かれるとしましょう。その場合、2週間後にスクールへ来られた場合は「〇〇さん、ハワイはどうでしたか?」と、名前を呼んだうえで会話します。

この会話は、レッスンとは直接関係ないかもしれません。ですが、このような話し方をすることで、スクールへ来られる方は「私のことをきちんと見てくれている」と感じるはずです。

同じスクールに通っていても、進捗は人それぞれ違います。うさぎのようにスタートが早い方もいれば、亀のように自分のペースで知識を吸収されている方もいます。そのため、一人ひとりに寄り添わなければなりません。お客様に寄り添う姿勢は、1981年の創業当初から変わらず持ち続けています。

必要なのは「絶対に成功させる」という強い気持ち

株式会社ベル・フルール 代表取締役社長 今野 亮平 氏

――そのような接し方をされると、嬉しいですよね。

以前、20代の若いスタッフが「髪を青色に染めたい」と言ってきたことがありました。私はその話を聞いて「いいね!」と言ったところ、スタッフが「社長、いいんですか?」と聞き返してきました。

私は「別にいいよ」と答えつつ、そのスタッフに「ただし、気を付けないと年配の方からは少し否定的な見られ方をしてしまうこともあるよ」と伝えたのです。

――たしかに、目立つ髪の色をしているスタッフに対して、マイナスな印象を持つ方もいるかもしれません。

一方で、そのスタッフに対して「だけど、ピンチはチャンスだよ」とも伝えています。接客をする際にお客様の悩みに寄り添いつつ、きちんとした対応ができれば見え方も変わるからです。

はじめのうちは「生意気な若い子」扱いされるかもしれません。しかし、お客様に寄り添った対応をすることで「この子、しっかりしているわね」と思ってもらえれば、ファンになってもらえます。

つまり「もっと売れる可能性があるけど、自分次第でもあるよ」と、スタッフには伝えています。

――事業承継において必要だと感じることを教えてください。

最後は、絶対に成功させるという強い気持ちではないでしょうか。私は、母親から事業を引き継ぐだけでなく、別の会社をM&Aで継承した経験があります。どちらも成功させるためにはやり続けるだけでなく、そのうえで事業を引き継ぐ本人の勇気や気持ちが重要だと感じています。

EMILIO ROBBAをM&Aをした際は、自分が「よし、やるぞ」という気持ちにならなければ始まらなかったことです。事業を継承するには、金儲けが目的だと失敗することでしょう。オファーのタイミングやさまざまなご縁も必要ですが、最後は自分のなかで「やるぞ」という気持ちや覚悟が芽生えなければ、アイディアも浮かばないと思います。

事業を継ぐということは、会社の歴史やスタッフの人生を買うとも言えますので、責任を持たなければなりません。当然リスクもありますが、自分のなかで「やれる」「やりたい」という気持ちがあれば、良い化学変化が起きて事業もうまくいくのではないでしょうか。

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今野亮平氏プロフィール

株式会社ベル・フルール 代表取締役社長 今野 亮平 氏

1977年、東京都生まれ。大学、専門学校を経て、グラフィックデザインを手掛ける会社へ入社。2年半ほど勤務したのちに、母親が1981年に創業したベル・フルールの前身「Belles Fleurs de Konno」を、2003年に法人化した。専務として事業に携わる傍ら、フラワーデザイナーとして、2006年に「日本フラワーデザイン大賞」1位を受賞。2018年に、ベル・フルールの代表取締役社長へ着任。花に関する全ての要望に応えるフラワーデザインカンパニーとして、フラワーアレンジメント制作・販売からスクールの運営など幅広く手掛けている。

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